生活動作別、注文住宅の使いやすい収納例
住宅の「暮らしやすさ」へ大きく影響する収納計画。
前回は「失敗しないコツ」の大枠となる「使いやすい収納の基本条件3つ」をご説明しました。今回は「基本条件の1つである“使う場所と収納場所が近い”を叶えるためには何をどう考えればよいのか」について、具体例を交えつつ掘り下げてお話ししていきます。
目次
1.はじめに
2.家族がよく通る場所に収納を作る
3.生活動作別、使いやすい収納例
. 3-1. 家に帰る・出かける
. 3-2. 入浴する
. 3-3. 洗顔する
4.まとめ
前回お話ししたように「使う場所に使う物がしまってあること」が生活のしやすさに繋がります。つまり「収納計画は生活動作を絡めるとピッタリに行き着きやすい」のです。収納のことを考える前に自分たちが家の中で「どういう行動をしているか」に思いを巡らせてみましょう。
『家の中で家族が一番よく通るところはどこですか?』と質問されたら、どこを思い浮かべますか。今頭に浮かんだその場所は、家族の動線が集中するところです。家族の「いつもの動き」に絡めやすいところは「収納として効果を発揮しやすい場所」。例えば家族全員で使うもの(使って欲しいもの)なら、家の真ん中(動線が集まる場所)にあった方が、使うときの“気力”が少なくて済みます。
少し極端にはなりますが、筆者自宅の掃除道具の話をします。
筆者自宅は昔ながらのいわゆる『農家の家』。2回の増改築を繰り返し、家の端から端までがとにかく長いのです。幼少期の話なので断言できませんが、「家の中で使う大きい掃除道具の収納」として設けられたのは、おそらく家の隅角に1箇所のみだったのでしょう。そうなると置き場から遠い部屋で使うときに「とにかく気力も時間も必要」で重い腰が上がりません。
その結果、「1階に3か所、2階には2箇所」といったように掃除道具置き場が自然増殖しています。置き場が増えた分、道具も増えて「ほうき2本、クイックルワイパーも2本、そして掃除機が・・・」といった具合です。こうなるくらいであれば、家族全員が使うものは「家族全員の生活動線上に配置」をした方が使いやすくて効率的。道具の数も減らせて経済的です。(実際に、我が家で一番使用頻度が高いのは動線の集まる家のど真ん中にあるクイックルワイパーです。)
「家族がよく通る場所」は「取りに行く際に負担の少ない場所」であることが多いです。「救急箱、体温計、マスク、虫刺されスプレー」など、「これは家族全員で使う(使って欲しい)」というものは「家族の動線が集まりそうな場所」に持っていくことをおすすめします。どこに集まるかイメージしづらい場合は、間取り図に家族全員の動きを色線で引いてみましょう。線が集まった場所が「取りに行く・取り出すハードルの低い場所」です。
ここからは具体的な生活動作別に「生活スタイルに合わせた収納計画」はどんなものがあるのかをお伝えしていきます。
「お出かけ・帰宅」に絡む動きから見ていきましょう。ここでキーになってくるのは「着替え動作」を家のどこにもってくるかです。
まずコート等の上着類は家の中で着ないものなので、玄関近くの収納が快適です。出がけ・帰宅時にすぐ上着を手に取りしまえるため、玄関近くへの収納配置はどの世帯構成でもおすすめできます。
玄関近くですぐに収納できるところがない場合、朝は上着を取りに行くのが手間に感じても寒ければ嫌でも必要なので「手間だな・・・」で終わります。でも疲れて帰宅して(何ならスーパーの買い物袋を抱えたりして)いるときに発生する「つい脱いだ上着をその辺の椅子に掛けてしまう」現象を止める手段は自制心以外にありません。止められるならやっていないのです。これを防ぐには他の部屋まで「移動する」「階段をあがる」という手間を省くほかありません。
玄関近くでも「クローゼットを開ける気力もない」方は、クローゼットではなく通り抜けできるシュークロークの一角に上着掛けを設置しましょう。「その場で掛けるだけ」まで手間を小さくして、さらに「帰ったらここで脱ぐ」まで習慣化できれば勝ったようなものです◎
世帯構成によって場所が変わっていくのが「パジャマやルームウェアから外着に着替える場所」。
『子供の小さい時期~思春期前まで』は「日常使いの服」と「出かける際の道具一式」をファミリークローゼットに一元収納してしまう方法がお出かけ時の手間削減と時短に効果的です。日常の洗濯物をしまう作業も一か所に集約できるため、家事効率の面でも嬉しい状態となります。
『子供が思春期の時期』になると「いきなりパパが入ってくるかもしれない空間で着替えたくない」という可能性も。そうなると「着替えは各自の部屋」に移行していくことも想定できます。この場合は個人の部屋に持っていくことになるため、制服など毎日洗えない(かつ締め切った収納にいれておかない方が良いもの)を掛けておくためのフックやパイプハンガーを設けておくと便利です。近頃は扉のないオープンスタイルのクローゼットを採用することが増えましたが、収納の際に通気を気にしなくても良いという面でもおすすめできるスタイルです。
「入浴」に絡む動作を想像してみましょう。多くの人はお風呂からあがったら「タオルで体を拭く→下着・肌着を着る→最後に服を着る」となります。毎回用意する手間を考えると、少なくとも「タオル・下着・肌着」は脱衣室の近くか脱衣室内に収納を設けておきたいところです。(ただし「外出用の下着は起きてから着る」という人は、起きて着替える服と同じ場所に下着収納を設置した方が取りに行く手間が省けておすすめです。)
余談ですが、ご家族に「靴下をところ構わず脱ぎ捨てる人」がいる場合は、帰宅してから「その人」が「最初に行きそうな部屋に到達するまでの経路上」に脱衣室(洗濯機)があると「収納以前に洗濯機に入っていないケース」を回避でき、心が楽になれるかもしれません。
「洗顔」に使う化粧洗面台の収納部分。家族で洗顔料など「使うものの共有」をしていない場合は、人別で使うエリアを決めておきましょう(これが一番心穏やかに使えると感じています)。自分の使用範囲に収まる物だけを置いておくルールにすると、他の家族に言いやすいです。「ここに出してあるコレ、戻さないの?」と・・・。
収納扉にラベリングしてしまうのも一つの手です。家族の中でも「収納の得意・不得意」やモチベーションの高低があると思いますが、そのような場合は「不得意な人」に「使いやすい場所(取り出しやすい・見渡しやすいところ)」を優先して使ってもらうと、気持ちのハードルが下がり整いやすくなります。
今回は「使いやすい収納の基本条件3つ」の中から「使う場所と収納場所が近い」について、生活動作別にお伝えしました。全体を通して「場所の近さ」「心理的な近さ(ハードルの低さ)」が望める収納計画にしておいた方が、後々生活は楽になっていきます。
床面積や予算の都合上「どちらかを叶えると、もう片方を諦めないといけない」という場合は、どちらを整えない方が「自分にとって苦痛か」で優先順位を決めるのもありです。
“自分の性格と収納タイプの相性”はどうしても存在します。「自分はどちらかといえば面倒くさがりだな」と思う人は「なるべく手数のかからない収納タイプや収納場所」を積極的に選んでいくと、生活が整いやすくなります。心理的なハードルを下げるために、例えば「たたむのが面倒でタオルがリビングの一角に山になっている」なら「乾いたタオルは畳まずカゴに投げ込むスタイルにする(プラン時はカゴ置き場のスペースだけ確保)」というのも一つの手です。自分と相性のよい収納スタイルを見つけるための一助になれば幸いです。
OGスタッフOG staff
日常の「めんどくさい」を撃退すべく、心と身体が快適に生活できる方法を日々研究中の一級建築士(ハンズワタベOG)。お片付けマニアで「家を整えること」「楽できる方法」を考えるのが大好き。小児喘息の経験から片付けやすく掃除しやすい部屋作りを得意としている。
〈資格〉一級建築士、インテリアコーディネーター、整理収納アドバイザー2級、住宅収納スペシャリスト、ライティングコーディネーター、色彩コーディネーター2級、福祉住環境コーディネーター3級
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